岡山地方裁判所津山支部 昭和44年(ワ)56号 判決
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〔判決理由〕1 訴外昌子が死亡したことによつて将来得べかりし利益を喪失したことによる損害については、その数額を確定することは過去において現実に発生した損害額を確定すると異なり、事柄の性質上極めて困難なことであるが、被害者が一六才の女性である本件の場合、被害者の死亡当時までの生活歴、生活能力、健康状態、家族の生活状態など諸般の状況、条件を考慮し、統計等資料を総合して将来の収益の蓋然性を検討し蓋然性に疑のあるときは被害者側に控え目な算定方法を採用して能うかぎり蓋然性のある数額を算出するほかない。
訴外昌子が昭和二六年一二月九日生(死亡当時一六才)で、死亡当時美作高等学校二年生であつたことは当事者間に争いのない事実であるほか、<証拠>によれば次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。すなわち、訴外昌子は義務教育終了後、前記高校に在学したが、身体は健康、成績は中等位、社会に出て直ちに役立つ特技は修得していなかつたが、性格は素直、真面目であり、私行上の問題はなかつた。同高校の上級学校進学率は五割を越えることはなく、同女も進学の予定はなかつたが、卒業すれば洋裁学校へ行くことを父親からすすめられていた。同女の父親(原告幸夫)は四五才、同女はその三女で両親健在、両親は農業を営み、両親共に青年学校卒業の学歴であり、同女の(姉)長女は津山高校を卒業し、二二才の現在タイピストスクール助教師、次女は高校卒業後店員として就労している。
右事実によれば訴外昌子は平均的な家庭で成育した、高等学校卒業の学歴を有すべき、健康で、能力的に平均的な女性であるもの考えることができ、総理府統計局の国勢調査および文部大臣官房統計課の学校基本調査によると、訴外昌子に近い年の女性は、その約七五パーセントが同女と同じように高校卒業後上級学校への進学以外の途へ進んでいることが認められるから、同女の将来の生活は平均的女性の平均的生活に近似する蓋然性が高いと考え得るのであつて、しかるときは同女の将来の生活上の蓋然性を求めるうえで、諸統計上の女性の平均的数値を参酌し、これに依拠する相当の理由があるものと言わねばならない。
2 進んで考えるに、訴外昌子が将来収益を得るかどうかは、少なくとも将来の各年令時における当該年令の女性総数の五〇パーセントを超える部分が就業している場合でなければ、訴外昌子に就業の蓋然性があるものとはいえないところ、総理府統計局の昭和四二年度労働力調査によつて、年令階級別の女子人口に対する就業者(従業者休業者で構成し、失業者を含まない)の比率を見ると、
二〇才から二四才までの場合 六九、三パーセント
三〇才から三九才までの場合 五三、六パーセント
四〇才から五四才までの場合 六一、一パーセント
で、それ以外の年令時においては、いずれも就業者の割合は五〇パーセント以下である。従つて、訴外昌子の場合、この年令時においてのみ収益を得る蓋然性があるものと認められる。
そして、女子就業者の収入についてみるに、労働大臣官房労働統計調査部の昭和四二年度賃金構造基本統計調査によれば、高校卒業者の女子平均賃金は女子平均賃金に近似しており、この女子就業者の年令階級別給与額は、
二〇才から二四才までの場合
月額 金二万一、八〇〇円
三〇才から三四才までの場合
金二万三、五〇〇円
三五才から三九才までの場合
金二万四、一〇〇円
四〇才から四九才までの場合
金二万三、七〇〇円
五〇才から五四才までの場合
金二万四、二〇〇円
であることが認められる。そしてその他の統計資料を勘案すると、右就業者には、右月額のほか少なくとも年度二ケ月分相当の賞与等が給与されていることが認められる。従つて、右給与月額にそれぞれ一四を乗じたものが各年令階級の年間給与額である。
3 次に、将来得べかりし利益を喪失したことによる損害の算定に際しては、被害者が将来支出する生活費は、収入を得るために必要な支出であると認められるから、収入から生活費を控除する必要がある。しかして、この生活費の算定は又困難な問題であり、収入に対する生活費の比率は家族構成や所得階層により差異を生ずるもので、例えば低所得者ほどその比率が高くなることは見易い道理であつて、これを確定することは容易でないが、手がかりを求めると、総理府統計局の全国消費実態調査によれば、前記所得階層の実収入に対する消費支出の割合は、おおむね五分の四であることを知り得る。しかしながら、ここにいう消費支出は、食料、住居、光熱、被服の各費用および雑費で構成されているのであるが、逸失利益算定の場合に収入から控除すべき生活費は、労働力再生産のために必要な生活維持のための費用というべきであるところ、右統計資料に言う消費支出は右の意味での生活費以上のものを含んでいることは明らかであるから、右数値を直ちに採用することは妥当でない。そして、右数値を参酌しつつ、経験に依拠して勘案すると、前記所得階層における収入に対する生活費の割合は三分の二であると考えるのが相当である。
4 以上のとおりであるとすれば、前記年令階級別給与から右割合で生活費を控除して得られる年令階級別年間収益は次のように算定される。
二〇才から二四才までの場合
金一〇万一、七二四円
三〇才から三四才までの場合
金一〇万九、六六二円
三五才から三九才までの場合
金一一万二、四六二円
四〇才から四九才までの場合
金一一万〇、六〇〇円
五〇才から五四才までの場合
金一一万二、九二四円
従つて、訴外昌子は右に算出した数額の得べかりし利益を喪つたものと言うべきであるが、この将来得べき収益を損害賠償として一時に支払を受けようとするのであるから中間利息を控除すべきであり、単位期間を一年とし、利率を民法所定年五分の割合として、ホフマン複式計算法によつて算定すると、その数額は金一六三万一、九七〇円となる。(田中昌弘)